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「戦後70周年記念シンポジウム」の趣旨説明

本大会企画責任者  早稲田大学 天児 慧 

今年は「戦後70年」を迎え様々なイベントが企画されている。しかし、日中・日韓関係は近年厳しい状況にある。粘り強く改善の努力をしないならば、日本にとって「戦後70年」は深刻な年にならないとも限らない。これらの関係はアジア太平洋地域の核心的な問題であり、研究者・知識人による冷静で前向きな議論を通じて、これらの関係を少しでも改善の方向に向かわせることは社会的にも重要な意義がある。当地域の協調的で安定的な未来像を構築する上からも極めて重要である。そこで「歴史対話からどのようなアジアの未来を創造するか」と題する国際シンポジウムを企画し、各メディアを通してその成果を広くアピールし、今後のアジア太平洋地域交流の信頼醸成・相互協力に役立たせたいと考える。

このシンポジウムを通じて日本のアジア太平洋外交政策の原点、あるいは指針は何かについて、改めて問題提起し、日本人の他に中国、韓国、太平洋地域の識者の参加によって、この問題を多角的に見直し、再確認することを心がけたい。日本のアジア太平洋外交、これからの望ましいあるべき隣国関係を考える場合、2つの視角が重要である。第1は、歴史的な視角である。アジア太平洋近現代史の中で日本をどのように考えるか、例えば日本の近代化、東亜共同体論など、理解はそれほど容易なことではない。本シンポジウムではとくに中国、韓国に加えてオーストラリア(太平洋)の視点から日本の外交とは何であったのかを論じてもらい、日本のアジア太平洋地域でのあり方を振り返ってみることにしたい。

第2は、戦後日本のアジア太平洋との関わり方をどのように考えるかである。今日話題となっている「村山談話」の評価に対して、本シンポジウムはとくに、1998年の小渕総理・金大中大統領の間で交わされた「日韓共同宣言」に注目すべきだと考える。韓国ではこれがいまなお極めて高く評価されていると言われている。ほぼ同内容の主旨で同年に小渕・江沢民国家主席の間での「日中共同宣言」も締結された。これらに盛り込まれた精神は、「村山談話」がもっぱらアジアへの侵略戦争謝罪のメッセージであったのに対し、両宣言は、日本の侵略戦争への「お詫び」とあわせ、韓国、中国は戦後日本の平和国家建設の歩みに対する高い評価を行い、互恵精神、未来志向によるパートナーシップの推進などを宣言したことであった。日本・韓国・中国の先人たちの間で作られたこうした精神・外交指針を今一度振り返りながら、日本、韓国、中国、さらには太平洋の国の学識者が一緒になって、現在の地平から未来のアジア太平洋を考え、活発に議論し「戦後70年」を総括しながら、未来の「アジア太平洋のあるべき姿」を構想していきたいと考えた。

「戦後70年」企画はおそらく、直接本シンポジウムに参加していない国・地域にとっても重要な関心と意義があると思われる。それゆえに、本シンポジウムの成果を多くの国々に発信していきたい。また日本において、政府目線とは異なる市民・知識人のアングルからの強いメッセージを発することは重要であろう。このシンポジウムの成果を踏まえながらアジア太平洋の新たな知的共同体の構築に力を入れていきたい。
多くも方々のご参加をお待ちしております。