排他的なナショナリズムを越えて
「新しい日中関係を考える研究者の会」は訴える

私たちは、昨年9月の尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる衝突をきっかけとして深まった日本と中国の対立に強い懸念を抱いています。対立の緩和と関係の再構築に力を尽くしたいと考え、志を同じくする呼びかけ人が、2013年7月、「新しい日中関係を考える研究者の会」を発足させようと集まりました。

1972年、国際環境が大転換する中で、日本と中国の国交が正常化しました。しかし、きわめて遺憾なことですが、40年たった今、日本と中国は、政府間でも世論のレベルでも強い緊張の状態に入ってしまいました。東シナ海(中国名・東海)では、両国の漁船や巡視船の衝突が突発的に起こりうる、そして軍事衝突さえ起こりうる危険な状況が続いています。東アジアの平和と発展の鍵を握る両国の間で、小さな島を巡る争いで軍事衝突が起こるなど、白昼の悪夢以外のなにものでもありません。こうした状況から脱し、事態を緩和させるために、私たちは、両国の政府、関係機関、教育・研究者、国民の皆さんに次の点を訴えたいと思います。

第一に、どのような理由があろうとも、国家間、国民間の衝突や紛争は、必ず平和的方法で解決、緩和されるべきです。領土をめぐって不一致が生じた場合、決して力を行使せず、国際的ルールにしたがって話し合いを通じた解決に努力しなければなりません。双方は、軍拡競争に陥ることなく、主権・領土の相互尊重や武力行使の回避を約した日中平和友好条約の精神に立ち戻るべきでしょう。

第二に、領土や領海をめぐる問題は主権が絡み、歴史的正義と法的正義をめぐる原理的対決になりやすく、人々の感情を掻き立てやすいため、合意や妥協は容易ではありません。

肝要なことは、この紛争を他のレベルに波及・拡大させない冷静さと知恵でしょう。

今回の対立によって経済交流に支障が生じたり、文化交流や学術交流が凍結されたり、地方や草の根レベルの交流が途絶えるようなことがあってはなりません。

とくに昨今、さまざまな日中の学術交流が滞っていますが、一刻もはやく正常に復すべきでしょう。

第三に、両国の政府と国民は、極端で排他的なナショナリズムを乗り越える必要があります。近代の東アジアでは、ナショナリズムが歴史を開いた時代もありました。

しかし、さまざまなものが国境を越え、諸国民が国家の枠を越えた共通の課題に直面しているいま、極端な、排他的ナショナリズムは、紛争の原因にこそなれ、決して積極的な結果をもたらしません。

日本と中国は、さまざまに影響を与え合いながら長い歴史を刻んできました。

いまこの二国は、東アジアの平和と発展に責任を負う立場にあります。地域と世界のためにも、私たちの子孫のためにも、協力と交流が生み出す大きな共通利益をみすみす失うようなことがあってはなりません。

日中双方の政府も国民も、目前の利益や一時の激情にとらわれず、冷静に行動することが求められています。そしてそのために、私たちも貢献したいと考えます。

本会は、具体的にはとくに以下の三点に力を尽くしたいと考えます。

まず、学術的知見の提供を通して、日中の政府、国民、そして研究者の間の信頼構築を進め、ナショナリズムを乗り越えて、東アジアにおける国民間の和解への道を探ること。

次に、日中の研究者を中心とした国際的な知的ネットワークを広げて、東アジア地域の緊張を緩和するために共に努力すること。

さらに、新しい善隣関係の構築に寄与できるよう日中関係研究の新たなパラダイムを追求すること、であります。

課題は多く、道は遼遠です。本会の趣旨に賛同して下さるすべての研究者を歓迎するとともに、ご支援、ご協力をお願いいたします。

 

「新しい日中関係を考える研究者の会」
2013年9月